概要
そもそも精子が少ないというのはどのような基準で決められているのでしょうか? WHOは1980年以降精液検査のマニュアルを発表しており、2021年に発表した6th editionで 1年以内に自然妊娠したカップルの精液検査で下位5パーセンタイルの値を自然妊娠可能か どうかの基準値として採用しています。
下に示す表の対象となった集団は1年以内に自然妊娠したカップルの男性で2−7日間の禁欲期間の後に精液検査を行なった精液検査の値を示しています。
少し分かりにくいかもしれませんが、上の表は1年以内自然妊娠した人のそれぞれのパラメーターを示した表になります。赤く枠で囲っているところが、下位5%の人の値になります。WHOではこの値を不妊と不妊でない人の境界としているのです。このことより精子の数は1ml中に1600万よりも少なければ乏精子症とされます。
2021年にWHOの6th editionが発表される前までは1500万以下が乏精子症とされていたこともあり乏精子症の中でも下記のように分類されていました。
- 1000〜1500万:軽度乏精子症
- 500〜1000万:中等度乏精子症
- 0〜500万:高度乏精子症
原因
精子の数が少ない原因を考える前に、精子が作られて出てくるまでのことを考えてみたいと思います。なぜ精子の数が少ないのか?
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精子は精巣の中の精細管で作られます。精細管の中では精子の元の細胞が精子になるまで74日かかり、1日に1億以上の精子が作られています。良い精子が作られるためには、1:正常な構造の精巣、2:精子を作るためのオーダー、3:精子を作るための正確な設計図、これに加えて4:良い環境(健康な体)が必要です。
精子が少ない原因を調べるためにはそれぞれ下記のような検査が必要になります。
- 精巣の構造を確認するための精巣の触診と超音波検査
- 精子を作るために必要な下垂体ホルモンの検査
- 染色体や遺伝子の検査(無精子症と高度乏精子症の場合のみ)
- これまでかかった病気や内服している薬、生活習慣のチェック
ネット上では男性不妊や精子に関する様々な情報が溢れています。サプリの摂取や生活習慣を改善することも必要ですが、まずは精子を造っている場所に異常がないかどうかを調べる必要があります。
長い時間をかけて精子が造られて出てくることから、造られる過程で様々な影響を受けてしまうため原因がはっきりしないこともあります。特に生活習慣に起因するものである場合は複合的な要因で造精機能が低下してしまっていることが考えられます。
代表的な異常所見と対策
超音波検査
腫瘍の有無や精巣上体の異常、精索静脈瘤の有無をチェックします。
精索静脈瘤は手術による治療を行います。
下垂体ホルモン検査
精巣で精子をつくるために働くホルモンを測定します。
値により精巣の機能を推測することができます。
値が低く精子が少ない場合はホルモンの補充を行います。
染色体、遺伝子検査
染色体検査:染色体の数や構造の異常を確認します。
遺伝子検査:精子を作るために必要なAZF遺伝子の有無を検査します。
いずれの検査も精子が少ない原因を知るために重要な検査になります。
ただし、染色体や遺伝子の異常を治療することはできません。
検査で明らかな原因がない場合
- クロミフェンによるホルモン療法
- サプリメント摂取による抗酸化療法
- 漢方薬による治療
- ライフスタイルの改善