男性不妊症専門外来

男性不妊症について

不妊症の原因のうち約半数は男性側の原因と言われています。男性不妊症の約8割は造精機能障害という精子を上手く作ることができない障害が原因と言われています。また、そのうちの約半数は原因がはっきりと分からない特発性です。原因がわかっているもので最も多いのが精索静脈瘤です。当院では、これまで別の病院で精液所見が悪かった方も含めて、懇切丁寧に妊娠に向けたお手伝いをさせていただきます。男性不妊症はその原因を突き止めて適切な治療を行えば妊娠の可能性が高まりますので、ぜひ一度ご相談ください。

男性不妊症の原因

男性の不妊症の原因は大きく分けて以下の3つであると考えられています。

  1. 精巣内で正常な精子を十分につくることができないため、精子の数が少ない、運動している精子の数が少ない、精子の形が悪いなど、射精された精液中に自然妊娠に必要な量の精子がない状態
  2. 性交渉を行う際に、膣内に十分な量の精液を出すことができない状態
  3. 精巣内では正常な精子を十分につくることができるが、精子の通り道の問題で射精した精液中に精子がない状態

1は「造精機能障害」で精子を作り出すまでの過程に問題があるケース、2は「性機能障害」、3は「精路通過障害」となっております。

造精機能障害

造精機能障害とは、精子を作り出す力が弱まってしまい、精子の数や運動率に問題がある状態を言います。本来であれば、精巣の中で作られた精子は精巣上体を通過する際に運動能力を得ることで、卵子と受精可能な状態となりますが、精巣内での精子形成の過程や精巣上体を通過して成熟する過程がうまくいかないために精子数の減少や運動率の低下が起こります。明確な原因はわかっていませんが、酸化ストレスが大きく関わっていることが知られており、漢方薬やビタミン剤、抗酸化剤などが効果的です。また、精索静脈瘤がある場合には精索静脈瘤の手術を行います。

 

活性酸素

アンチエイジングなどの際に耳にする活性酸素は、体内で有益な効果をもたらす一方で、過剰に摂取してしまうと体の細胞に大きなダメージを与えることもあります。体内には活性酸素から細胞を守る機能が備わっていますが、加齢ともにその機能は低下していきます。特に、肥満ぎみの方、喫煙や過度な飲酒の習慣がある方は、活性酸素の産生が増加し体の細胞だけでなく精子のDNAにもダメージが及んでしまい、男性不妊症の原因となることがありますので、注意が必要です。

性機能障害

主に、勃起不全と言われるEDと射精が困難となる射精障害に分けられます。
EDの場合、その原因の多くは心因性のもので、決められたタイミングで性行為を行うタイミング法の実施などがストレスとなりEDを発症する方も多くいらっしゃいます。また、射精に伴うプレッシャーが原因で射精が困難となる膣内射精障害という状態も起こり得ます。
射精障害の場合、原因は神経障害や糖尿病、心因性、薬剤性など様々あります。症状も、早漏・遅漏、精液が出なくなる無精液症、精液が膀胱内に逆流する逆行性射精など、患者様によって様々です。

精路通過障害

精子の通り道である精路に何かしらの異常が起こっている状態を言います。例えば、精巣の中では精子が作られているにもかかわらず、精液の中に精子が含まれない閉塞性無精子症などが代表的な疾患として挙げられます。他にも、先天性の両側精管欠損や精巣上体炎後の炎症性閉塞などがあります。閉塞している部位を回避して精路を繋ぎ直す精路再建手術を行うことがありますが、適応は配偶者の年齢やAMHを考慮する必要があります。配偶者の年齢が高い場合には、精路再建は行わず精巣内精子を使った顕微授精(TESE-ICSI)が行われることが多くなっています。

精子は子供の設計図

精子頭部には子供の身体を作る設計図となる染色体、DNAが存在します。このDNAは様々な理由でダメージを受けることが知られています。どんな男性でも、検査をするとある程度の割合で、DNA損傷を受けた精子を持っています。ただし、この割合が上昇すると、妊娠率の低下や流産率が上昇することが報告されています。

精子ができるまで

精子は、精巣の中で74日間かけて作られ、尿道から射精されるまでに14日間かかると言われています。この間に自分の体を作る設計図を半分ずつに分けて子供の設計図にするため減数分裂という、染色体が半分になる変化が起こり、円形の細胞が尾部を持った精子となり、精子の通り道である精巣上体を通過することで受精する能力を獲得します。なお、精巣は下垂体ホルモンによってコントロールされ、精子だけでなくテストステロンと言う男性ホルモンも作っています。

元気な精子が少ない原因は?

不妊治療の現場では、精子の数や運動率、DNAの状態を改善して妊娠の可能性を高められるように日々患者様と向き合っています。精巣の超音波検査や下垂体のホルモンの検査によって、精子の状態が悪い原因を知り、最適な改善策をご提案いたします。

ダメージを受けやすい精子

精子の頭部には子供の設計図となる染色体がありますが、染色体の周りには細胞質がなく、体の細胞と比較して外部からダメージを受けやすいです。特に、喫煙などの習慣がある方は、体の細胞だけでなく精子にもダメージが及ぶリスクがあるため、注意が必要です。

男性不妊の検査

基本検査

血液検査

精子を作るにあたって必要となるホルモンの値を測定します。
精液を介した感染症に感染していないかどうかを検査します。
精子の運動率に影響を与える亜鉛の濃度や、肝臓、腎臓の機能について検査をします。

精巣の検査

触診によって、精子の通り道である精巣や精巣上体などに異常がないか検査します。
超音波検査によって、精巣の内部に異常がないか、精索静脈瘤など血管の異常が起きていないかを検査します。

精液検査

採取した精液の中の精子の数や運動率などについて評価します。

無精子症や精子濃度が500万/ml以下の場合

染色体検査

リンパ球の染色体を検査し、異常がないかをチェックします。異常があっても治すことはできませんが、この検査によって、お子さまに受け継がれる可能性がある異常について知ることができます。

AZF遺伝子検査

精子の形成に関係しているY染色体上の遺伝子について検査します。染色体検査と同様に、異常があっても治すことはできませんが、お子さまに受け継がれる可能性がある異常について知ることができます。

より詳しい男性側の検査を希望される場合

精子精密検査

精液検査によって、精子DNAの損傷率や精液中の酸化ストレスに対する抗酸化力を確認します。

男性不妊の治療

性機能障害

投薬治療

男性不妊の治療射精時に精液が膀胱へと逆行する逆行性射精の症状がある場合は、抗うつ剤を使用します。また、EDが不妊症の原因となっている場合には、PDE-5阻害薬を使用することもあります。不妊治療をおこなっている方のなかで条件を満たす場合は2022年4月から保険で薬を処方することができる様になりました。詳細は受診していただきご確認ください。

自慰行為の矯正

誤ったマスターベーションの方法を続けていると、性交の際に膣内で射精できないことがあります。専用の器具を用いて矯正を行いますが、場合によっては人工授精をご提案することもあります。

人工授精

1年以上自然妊娠が得られない方、タイミング療法で妊娠が得られない方、性交渉がうまくできない方で、運動精子数がある程度確保できる方が対象となります。

精子数の低下、精子運動率の低下、正常形態率の低下を認める方

精索静脈瘤手術

精索静脈瘤がある場合には、手術をすることが最も効果的な治療となります。静脈血の逆流を止めることにより、精巣の血液循環を改善します。手術後3ヶ月ほどで精子数の増加、精子運動率の改善、正常形態率の改善、DNA fragmentation index (DFI)の改善が期待できます。

生活習慣の改善

喫煙や過度な飲酒、不規則な生活など、活性酸素の増加をきたす様な行動はできるだけ控えていただきます。また、普段使われているお薬の中に精子の形成や射精の異常をもたらす恐れがあるものもありますので、注意が必要です。さらに、精巣を長時間温度の高い環境に晒す行為も控えた方が望ましく、具体的には、サウナや長湯、膝上でのPCの使用などがあげられます。

男性不妊に影響を与える可能性がある薬剤

下記に代表的な薬剤を示します。しかし、ここに記載されているものが必ず、精子の状態を悪くしてしまうわけではないこと。基本的に各疾患の治療に必要であれば、治療を優先させるべきであることに注意してください。
*ここに記載されていなものでも影響があるものもあります。

 薬の種類 薬の名前  精子、胎児への影響
抗がん剤
(高リスク)
アルキル化剤 無精子症が遷延する可能性が高い
  シクロホスファミド
  プロカルバジン
  テモゾロミド
抗がん剤
(中リスク)
シスプラチン 無精子症が遷延することがある
  カルボプラチン
抗がん剤
(低リスク)
アントラサイクリン 一時的な造精機能障害
  シタラビン
ホルモン剤
(前立腺がんの薬)
リュープロレリン 可逆性の造精機能障害
  ゴセレリン 性欲減退、勃起不全
  デガレリクス
  テストステロン 精子数の減少
AGAの薬 デュタステリド 精子数の減少、運動率の低下
性欲減退、勃起不全
  フィナステリド
胃薬
(PPI)
オメプラゾール 長期服用で精子数の減少
  ランソプラゾール
  エソメプラゾール
胃薬
(H2 Blocker)
シメチジン 大量投与で性欲低下
抗うつ薬
(SSRI)
エスシタロプラム 射精までの時間の延長
射精困難
精子DFIの増加
  セルトラリン
  パロキセチン
  フルボキサミン
痛風治療薬 コルヒチン 先天異常児出産の報告
多発性骨髄腫の薬 サリドマイド 精液中に移行することがある
角化症治療薬 エトレチナート 精子形成能低下
C型肝炎治療薬 リバビリン 動物実験で精巣、精子の形態変化
サイトメガロウイルスの薬 ガンシクロビル 動物実験で精子形成機能障害
  バルガンシクロビル 動物実験で精子形成機能障害
ボトックス A型ボツリヌス毒素 動物実験で精巣の変性
免疫抑制剤 アザチオプリン 動物実験で催奇形性作用の報告
リウマチの薬 メトトレキセート 動物実験で胎児死亡、先天異常の報告
  アラバ
前立腺肥大症の薬 シロドシン 射精障害、逆行性射精
  タムスロシン
  アボルブ 精子数の減少、運動率の低下、勃起不全
てんかんの薬 バルプロ酸 精子形成に関連するホルモンの低下
  カルバマゼピン 精子運動率の低下
  ガバペンチン 動物実験で精子正常形態率の低下
潰瘍性大腸炎の薬 サラゾピリン 精子数の減少、運動率の低下

薬物療法

精子の数や運動率に問題がある場合に、漢方薬、ビタミン剤、血流改善薬などによる薬物療法を行います。また、脳の視床下部や下垂体の機能障害が原因で起こる精巣機能不全症例(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)の患者様に対しては、hCG、FSH療法と呼ばれる内分泌療法(ご自身で定期的に注射を打っていただきま)を実施します。ホルモンが足りないことにより無精子症になっている患者様に関しては、ホルモン治療を行うことにより射出精子が出現することもあります。

人工授精

1年以上自然妊娠が得られない方、タイミング療法で妊娠が得られない方、性交渉がうまくできない方で、運動精子数がある程度確保できる方が対象となります。

精索静脈瘤がある場合には、手術をすることが最も効果的な治療となります。静脈血の逆流を止めることにより、精巣の血液循環を改善します。手術後3ヶ月ほどで精子数の増加、精子運動率の改善、正常形態率の改善、DNA fragmentation index (DFI)の改善が期待できます。

高度の精液の性状低下・無精子症

顕微授精

主に精子と卵子の受精がうまくいかない場合に適応となります。具体的には体外受精をおこなった際に受精がうまくいかない場合や、極端に精子が少ない場合、無精子症などのために精巣内精子を使わざるを得ない場合などに適応となります。

精巣内精子採取術(conventional TESE)

精巣内精子採取術とは、閉塞性無精子症を患っており精路再建術が困難、もしくはできなかった方に対して行うものです。具体的には、陰嚢の皮膚を少しだけ切り開き、精巣の組織の一部(精細管)を採取します。閉塞性無精子症においては、精巣内で精子がつくられており、基本的には精子が回収できるので、小さな傷で手術ができます。精子が確認できれば精子は一旦凍結します。精巣内精子は顕微授精でしか受精できないので、配偶者の採卵に合わせ精子を融解し(凍結してあったものをとかして)、顕微授精を行います。

顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)

Conventional TESEで精子が回収できない場合と非閉塞性無精子症の場合に行う手術です。皮膚を切開し、精巣を体外に取り出し、精巣を切開、精巣内にある精細管を顕微鏡で観察します。精子をつくっている精細管はあったとしてもごく一部にしかないため、十分に観察を行い、精子をつくっている精細管を検索し、精細管を採取します。採取した精細管内の精子を検索し、精子があれば凍結を行います。閉塞性無精子症と比較して十分な量の精子が回収できないことや、凍結した精子がダメージを受け融解後に顕微授精に使用できないこともあります。

顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)

閉塞性無精子症ではない方の場合、精巣内での精子形成に異常が起こっていることがあります、したがって、陰嚢の皮膚を切開して精巣を体外に取り出し、精子の形成が進んでいる部分を手術用の顕微鏡を用いて探し出し、精子の採取を行います。しかし、閉塞性無精子症ではない方の場合は、精子の採取ができないことも考えられますので、ご了承ください。

顕微鏡下精巣精子採取術

経皮的精巣上体精子吸引術(PESA)

皮膚を切開せず、経皮的に精巣上体から針で吸引するように精子を採取する方法です。明らかな閉塞性無精子症で、閉塞より精巣上体管が拡張している場合に行われることがありますが、合併症や精子回収率の問題から、当院では行なっておりません。

顕微鏡下精巣上体精子吸引法(MESA)

閉塞性無精子症で、精巣上体管が拡張している場合に行われることがあります。皮膚を切開し、精巣上体を顕微鏡で観察しながら、拡張した精巣上体を穿刺し精子を採取します。精巣内精子と比較し、運動性を持った精子が多く採取できます。

精路再建手術

精子の通り道となる精路に閉塞が起こっている場合、閉塞している部位を切除して精子の通り道をつなぎ直す方法です。精路通過障害が解消されることによって、射精により精子を得ることができる様になるため、自然妊娠の可能性が高まります。ただし、配偶者の年齢などを考慮し手術適応を考えないと、妊娠までの時間を延長してしまう可能性があり、注意が必要です。具体的な方法としては、以下のようなものがあります。

精管吻合術

パイプカット手術や鼠径ヘルニア手術によって精管の閉塞が起こっている方に対して行う方法です。具体的には、閉塞が起こっている部位の末端と開通している精管の中央付近を繋ぎ合わせます。閉塞してから手術までの時間や閉塞部位の長さにより手術が成立しないことがありますが、つなぎ直すことができれば、精子の出現率はおおよそ80~90%になります。

精管精巣上体吻合術

精巣上体の一部を切開して精巣上体管と精管を繋ぎ合わせる方法です。精巣上体炎が原因となることがありますが、はっきりとした原因がわからないこともあり、閉塞が複数箇所に及ぶ場合は繋ぎ直しができないこともあります。また、射出精子が出現したとしても、精液所見が、自然妊娠が可能なレベルとなるかどうかわからないため、手術の適応については配偶者の年齢やAMHの値を考慮する必要があります。

射精管解放術

精巣でつくられた精子は精嚢と前立腺で作られた精液と一緒になり射精管から尿道に出てきます。その出口である射精管が閉塞していることで、精液が十分に出ない場合に適応となる手術です。全身麻酔で行う手術ですが、内視鏡を用いて行う手術ですので、皮膚を切開する必要はありません。

非配偶者間人工授精 (AID)

無精子症の方で、手術により精子が回収できなかった場合に適応となります。第三者の精子を用いた人工授精を行うことで、配偶者が妊娠します。本邦では1960年代から行われている治療で生まれた子供は法律上ご夫婦の子供となります。しかし、凍結精子を用いることによる低い妊娠率であったり、生まれた子が生物学的父親を知る権利など、難しい問題があります。当院ではカウンセリングも行なっておりますので、お悩みがある場合にはご相談ください。

不妊治療における
EDの割合

男性不妊外来を受診された方へのアンケートで、EDについての調査を行ったところ、半数以上が軽度以上の勃起不全(ED)、中等度以上が約4分の1と非常に多くの方がEDと診断されました。この中のほとんどの方が、心因性のEDです。マスターベーションや排卵日以外の性交渉は問題なくできるのに、いざというときにできなくなってしまいます。なかなか妊娠が得られないと、排卵日にタイミングを「とらなければならない」となり性交渉が「仕事」や「義務」のように感じてしまいます。また、ちょっとしたことでうまくできなかったりすると、「次は頑張ろう」などと考えてしまい、ますますできなくなってしまいます。なぜなら、勃起や射精は頑張ろうと思ってできるわけではなく、性的な刺激によりできるものだからです。このように失敗体験を繰り返すことで、EDとなってしまう方は決して珍しくありません。なかなか相談しにくいことであると思いますが、お気軽にご相談ください。

男性不妊の治療と
当院の方針

男性の不妊原因の多くを占める造精機能障害に対しては、精索静脈瘤の手術、ホルモン療法、生活習慣の改善、サプリメントや漢方薬など様々なものがあります。しかし、不妊治療は男性側だけでなくパートナーの状態も考慮して、最適な治療法を選択する必要があります。また、昨今はネット上に様々な情報が溢れており、ご自身に合った適切な情報を見極めることも必要です。当院では、患者様の状態を正確に把握するための検査を行い、専門家として最適な治療法をご案内することで、一日でも早く治療の結果が出るように全力でサポートさせていただきます。

TOPへ